「奇跡」とは、通常、自然の法則を超えたなにかの現象をいうものだが、
実はそれが起きるにも、ある程度の法則性があることを、
読者の皆さんはよくよくご存知であるに違いない。
それは、本人たちが努力しているということ、
世界を肯定的に捉えているということ、
そして、(したがって)、環境にも支えられていることなどだ。
映画『ベンダ・ビリリ』を観ていると、
ここに登場するメンバーたちが、
病気と貧困に喘いでいるはずの人生を、
いずれも前向きに捉えていることがわかる。
そういう人に、“運”はついてくる。
もう一つの大事なことは、
こうしたグループが一つ出てくるためには、
やはり社会が全体として底上げされてきている必要もあるということだ。
たとえば、このグループはヨーロッパ人プロデューサーの目にとまったわけだが、
そのためには、ヨーロッパ人がその地に滞在するだけの下地が必要だったに違いない。
また、ベンダ・ビリリのリーダーは小児麻痺で死にかけ、
車椅子の生活をしているが、
彼が実際に死んでいればグループが生まれる可能性もなかった。
翻って、私がアフリカ滞在中、お世話になっている皆さんというのは……
いずれも、社会全体の底上げに尽力している修道会の人たちである。
彼らの力がなければ、
今のコンゴは欧米人が住める環境ではなかっただろうし、
また、さらに多くの人びとが病気や飢えで亡くなったであろう。