このブログでは、過去、さまざまな奇跡をご紹介してきたが、
今回はボクシング史上伝説に残る“奇跡”と、
それとはまた違った形の、しかし同じ名前のついた“奇跡”もご紹介したい。
ボクシングなど関心ないという読者の皆さんも、
少しだけお付き合いいただきたい。
最初の奇跡の男の名は、ジョージ・フォアマンという。
ボクシングファンなら、知らない者は一人もいない。
1968年、メキシコ・オリンピックで金メダルを獲得し、
翌年、プロに転向するや13連勝を挙げ、うち11KO、
翌年は12連勝で、うち11KO。
要するに、天才であった。
当時のボクシング界は、
兵役を拒否し、不敗のまま3年も服役した元王者モハメド・アリと、
アリ不在中に王座に就いていたジョー・フレージャーの時代であった。
モハメド・アリは、復帰後、フレージャーのもつ世界王座に挑戦するが敗れ、
ヘビー級の新星ケン・ノートンにも続けて敗れた。
しかもそれは、顎の骨を砕かれるという屈辱付きであった。
ジョージ・フォアマンがその天才を如何なく発揮したのは、そんな時代だ。
彼は73年、
アリを倒して不動の王者として君臨していたジョー・フレージャーに挑戦するや、
これをたった2ラウンドであっさりKOしてしまう。
続いて、「アリの顎を砕いた男」ケン・ノートンも同じく2ラウンドでKO。
この試合を観たときの驚きを、私は今も忘れない。
「モハメド・アリの顎を砕いた男」が、
気がついてみたらまるで赤ん坊のようにマットに寝転がっていたのだった。
同じ年の9月、日本武道館で行なわれた統一世界ヘビー級王座防衛戦は、
前座が日本人の出場するスーパーフェザー級の世界戦、
それに沢村忠のキックボクシング公式試合も特例で開催されるという豪華版となった。
が、これらの前座があってよかった。
ヘビー級世界戦の相手はジョー・キング・ローマンといって、
この名前を私は今も覚えているが、
彼のほうは、ただの1ラウンドももたなかったのだ。
「これから10年は、誰も彼を敗ることはできない」
ファンも、評論家も、誰もがそう感じていた74年、
史上最強の王者に挑戦したのは、ふたたび、モハメド・アリだった。