堀井学


 現在の日本スポーツ界の話題は、阪神の意外な快進撃と来るサッカーのワールド・カップ。せわしない日々の喧騒のなかで、今年冬に行なわれた冬季五輪はすでに忘れられ、あんなに日本中が熱狂した長野五輪を思い出す者はいない。
 そんななか、一人の選手が引退していった。
 天才スケーターとして早くから注目された堀井学は、実際、リレハンメルでは銅メダルをとっている。さらに、世界新記録を樹立して迎えた長野。金メダル候補の筆頭に、誰もが堀井を挙げた。
 が、ここに一つの偶然が作用する。五輪直前になって、スラップスケートが登場したのだった。スラップを履きこなした選手が次々と世界記録を更新するなか、堀井は最後までその採用を躊躇した。
 結果、長野は惨敗。会見のとき、こらえきれずに堀井の目から滲み出た涙は、清水の金メダルやジャンプ陣の活躍よりも僕には印象的だった。
 四年後、ふたたび五輪で負け、堀井は昨日、引退した。万感の思いがあったろう。「会見後、一時代を築いたスケーターの目から、あふれるものが止まらなくなった」と新聞は報じた。


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