高校3年の夏、最後の甲子園大会の県予選決勝、
この一戦に勝てば甲子園にいけるというその試合は、
味方のリードで9回裏二死まできていた。
この打者を討ち取ればゲームセットというまさにそのとき、
打球は彼の守るセンター正面に飛んだ。
それほど難しい当たりではなかったライナー性の打球は、
しかしグラブの土手に当たって落ちてしまう。
結果、試合は逆転負け。
あの一瞬さえなければ、歓喜の甲子園が待っていたのである。
さらに悪いことに(といえるだろうが)、こうして負けたその相手が、
結局、甲子園では決勝まで進み、優勝して凱旋して来たのだった。
「自分たちの分まで、よく頑張ってくれた」--
などというきれいごとが、彼の脳裏にあろうはずはなかった。
それから何年が経っても、彼はあの一瞬を忘れることができない。
なぜ、あのとき落としてしまったのか、
その理由が知りたいが、誰も教えてはくれない。
あの瞬間まで人生を遡ってやり直したいと思っても、
それもできない。
たかがスポーツ、趣味の範囲だとわれわれは思うかもしれないが、
しかし実際にやる者は命懸けだ。
以上……
インドで出会った読者のお一人から直接うかがったお話でした。