五輪 8


それは今から35年も前の出来事だ。
広島市の中学総体に出場する選手たちは、
土曜日の授業を途中で抜け、体育館に集められた。
そうして、校長のS先生が訓話を行なった。
「まあ、せいぜい、頑張ってきてください」
校長は確かにそう言った。
が、私の知る限り、「せいぜい」という言葉は、
「どうせ君らはダメだろうが、まあ、せいぜい頑張りたまえ」
というような意味で使うし、
彼の言い方もまた、そのとおりのように聞こえた。
たしかに我が校は、ほとんどすべてのスポーツにおいて
非力というほかなかったが、
それでもそれなりに一生懸命練習に励み、
さあ、これから総体だというときに、
「まあ、せいぜい頑張ってください」と言われれば、
聞いていたわれわれがあるいは耳を疑い、
あるいはコケたことは言うまでもない。
だが、この訓話を行なった校長は、なにも……


……外国人司祭だったわけではない。
顔が猫に似ていたのでS猫とも呼ばれていた彼は、
国語、特に古文の教師で、
その後は長く、校長や理事長を歴任された。


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