五輪 2


このような事態に図らずも陥ってしまった野口選手を非難する人は、
日本人にはいないだろう。
どこまで選手がトレーニングに耐えられるのか、
どこからが限界なのかを、
正確に予見することは誰にもできない。
しかし、それにしても今回、せっかく時差のない北京で大会が開かれ、
それは日本人選手にとって限りなく有利なことだったというのに、
なぜ直前になって激しく時差のあるヨーロッパで合宿を張ったのだろうかという、
素朴な疑問が私には残る。
もともと時差は、東に行くときよりも、西に行くときのほうが、
はるかに調整が難しい。
また、長距離を移動するだけで、
生体にはわれわれの想像を超える負荷が、実はかかっている。
エコノミークラス症候群は、単に体をじっとさせていることから起こるものではなく、
移動すること自体による生体の負荷がその基礎にあるので、
グリーン車に乗ろうがファーストクラスに乗ろうが、
その部分については変わらない……


……というようなことを、
もしかしたらマラソンの専門家の皆さんは知らないのだろうか。
このような不自然で、余計な負荷が多大にかかる合宿を、
しかも直前に張ったというのはどうにも腑に落ちず、
後々そのことが認識されるにつけ、
悔やまれることになるのではなかろうかと案じられる。


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