日本人として初めてポスティングシステムに道をつけたイチローは、
最初の年に首位打者、盗塁王、新人王、MVPに輝いたばかりでなく、
大リーグのシーズン最多安打記録を打ち立て、
今年はオールスター史上初のランニングホームランを記録してMVPに輝いた。
これが、自らも初めてのランニングホーマーだったことを思うと、
どこまでも記録に残る星の下に生まれた人である。
しかし、このイチローですら、相対界にいる以上、
幸運だけがやってくるわけでは、もちろんない。
昨年の4月から積み上げてきていた連続盗塁成功記録は、
今年になっても途絶えることなく、45まできていた。
大リーグ記録まで、あと6。
一年以上にもわたって、何十回もの盗塁を、
一度も失敗することなく続けたのはまさに信じ難いが、
記録樹立は時間の問題と思われていた。
ところが、5月17日、3点差のついた終盤、
監督から出たのはヒットエンドランのサインだった。
走者をためる場面で、あり得ない作戦だが、
同時に、打者はこれを見落とした。
結果、無為に走らされた彼は二塁塁上で憤死、
記録上は盗塁失敗となった。
「自分の意志で走って終わりたかった」と、イチローは述懐したが、
奮起した彼は翌日、早速3つも盗塁を決めている。
普通の監督の下でなら、早晩、
連続盗塁大リーグ記録という新しい勲章を得た可能性が高い。
監督、および同僚の凡ミスはまことに悔やまれるが、仕方がない。
これが勝負の世界であり、人生であり、
相対界に生きることだと考えるしかない。
ちなみに、シアトル・マリナーズのこの監督は、
ほどなくして辞任した。