イチローと比べてはいけないかもしれないが、
松井の場合は、少し様子が違う。
野球協約においては、
ＦＡ宣言をする選手が他球団と事前交渉をしてはならないとされている。
しかし松井の場合、ＮＹヤンキースと事前の交渉ができていたとみるのが自然である。
こうして、移籍会見の席上、松井自身の口から、
「裏切り者と言われるかもしれませんが（大リーグに行きます）」
という発言が、つい出てしまった。
事前の交渉、つまり密約がなければ、
裏切り者などと呼ばれる筋合いは全くないのであって、
その言葉はまさに、純情な青年の口からつい出てしまったのである。
それでも……
世間には裏口入学も実際にあれば、
こんなこともよくあることで、
マスコミも公然の秘密とばかりに問題にしなかった。
それに、中学生の頃から人の悪口を言ったことがないというこの青年は、
そのせいなのかどうか強運の持ち主で、
きっと大リーグでも活躍するだろうと私は思っていた。
が、仮にイチローを“超一流の”選手というなら、
松井は大リーグでは“一流の”選手になるのかもしれない、という予感もまた、
私のなかにはあった。
こうしたことに、本来、直接的な因果関係はないと考えるのが普通だし、
今後のことは分からないが、今のところ、
この予感はおおむね的中しているように思われる。
