第十三回 〜二千年の聖都への大巡礼 サンティアゴ・デ・コンポステーラ〜 七日目-2


ほどなくして、下江添乗員がホテルに戻ってきたが、いつも陽気な彼も疲労が隠しきれない。昨夜、打ち合わせをして別れたのが夜の11時で、Qさんからの電話が1時半。その後、彼女らが行ったFADのお店に探しに行ったり警察で紛失証明をとったりで、彼はほとんど寝ていなかった。
「奇跡を期待する他、ありません」
私の部屋に来るなり、下江さんはそう言った。
「本人には、何と言ってあるのです?」
「五分五分と言いました」
そう言うしかないだろう。しかし現実には、パスポートの発行には通常、一週間かかる。この日は金曜日だったので、渡航証明をとるにも、ちゃんと手続きを踏んでやろうとすれば翌週になるだろう。
しかし帰国は翌日便だ。彼女が今回のツアーに戻れる可能性は、実際のところほとんどない。その上、在外公館は、手厚い手当てを支給され、場合によって何千本ものワインを貯蔵している割りには、パスポートを失くしたなどと言ってくる同胞に対していかに冷たいか、われわれは誰でも知っている。
しかしそれなら、なぜ下江添乗員は夜中にでも起こしてくれなかったのかと私は思った。あるいはせめて、駅に見送りに行きたかった。
いずれにしても私は、このとき、自分にできることがそう多く残されていないことを悟った。


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