何が起きつつあるか、私は誰にも言うことができなかった。
科学と迷信は一応区別して考えるほうだと自分では思うが、3つも4つもこんなことが同じ日に起きると、やはり気持ちよくはない。しかも、晴れの舞台に立つ大山君は、今日の試合に人生を賭けているのだ。
前座が始まっても、私はあまり試合に気が入らなかった。隣では、いつも一緒に応援に来てくれる有能な税理士のMさんが、「今日もすごい美女係数ですね〜〜」などとしきりに感心している。
大山君がこの日のため、何カ月も苦しい練習を重ねてきたことを私は知っている。今現在もまた、精神を集中し、最後の調整に余念がないに違いない。そんなときに、私自身を含め、応援団のこの有り様は一体どうしたこと……。
そのとき、私たちのすぐ後ろの席から、思わぬ大声が飛んだ。
「○・○・○〜〜〜ッ!!」
それは、【マリアの会】の妙齢の女性の名前だった。何故? どうして彼女の名前を、何の関係もないはずの後ろの男が叫ぶ?? 声は、大きく何度も飛んだ。
よく聞いてみると、それは今日の出場選手の一人(当然、男)の名だった。最後の母音だけが少し違うのだが、発声の仕方が悪くて、大声で叫ぶと同じに聞こえる。
ところが、これに便乗してか、隣のMさんも後ろの男に負けない大声で叫び始めた。
「○〜○〜○〜〜〜ッ!!!」
う〜〜ん……、もう、何がどうなっているのか分からなかった。
青山圭秀
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