先輩 1


今から33年前の夏、中学2年だった私は、島根県の浜田という小さな街に向かっていた。この街の小学校を借り切って、臨海学校のキャンプが張られたのである。
広島から約2時間、バスでの行程は楽しかった。進学校の過酷な期末試験を終え、生徒たちは高揚していた。ガイドさんの話術も軽妙だったが、皆はガイドさんからマイクを奪い取り、さまざまなパフォーマンスを繰り広げた。
実は当時、広島市の学校では、水の事故が連続して起きていた。一昨年は広島大学付属中学で、昨年は私立の名門・修道中学で死者が出た。だから今年は、わが広島学院が危ないぞと、冗談を言う者がいた。「二度あることは三度ある」と言う者もいた。
そうかもしれないと、私も思った。だが、飛行機に乗る前から、落ちるかもしれないと予測する者など一人もいない。車に乗るときだってそうだ。県内屈指の進学校で二年続けて水の事故があったことすら、大変低い確率のことが起きたのだ。三年目の今年、われわれが犠牲になる確率はさらに低い。私はそう思っていた。


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