美学 7


もし自分だったらどうするか……。私は咄嗟にそんなことを考えていた。身長・体重ともに圧倒され、全身これ筋肉の塊、技も円熟期を迎えている王者とやれと言われたら。
私なら、間違いなく、試合そのものを変更してもらえるよう交渉したに違いない。どの格闘界出身でもいい。とにかく体重が同じレベルの相手ではないと、格闘技は圧倒的に不利なのだ。
もしそれがだめで試合場に出てきてしまったら、では、何とか格好をとりつくろうにはどうしようかと、考えたかもしれない。そしてそれは、必ず試合中の姿勢に現れる。どこかで腰が引けていたり、後退したり、踏み込みが甘かったり、どんなに隠そうとしても気持ちがそこに現れる。
だが、大山峻護は違っていた。あの体格差で圧倒的な相手に対し、真っ向から勝負を挑んでいった。この日の試合、他のすべての試合が、体重が均衡した者同士の戦いだったのに、彼だけが、これほどのハンデを背負って戦っていた。
前へ出て、空手王と互角に打ち合う。そうして一瞬のスキをついて、彼が足をとった。相手をリングに這わせ、寝業に持ち込んだのだ。


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