美学 4


この日、私は流行りの風邪をもらってしまっていて、体調はすこぶる悪かった。自重すべきか……とも思ったが、試合が近づくにつれ、心の内側から抵抗しがない思いに動かされ、有明に向かった。
試合場には、あのリングが設営されていた。かつて、ボクシングを修行し、後楽園ホールでセコンドに立ったりした頃のことを思い出す。
リングに注がれる七色の光線、大観衆の歓声、これから戦いに臨む選手をそれぞれに象徴するような大音量の音楽……。思わず、20年前にタイムスリップしたような気持ちになった。
今トーナメント最大の見どころは、あの「神の子」山本キッド徳郁と、グレイシー一族の寵児ホイラー・グレイシーの一戦とされていた。
実際、山本キッドの格闘家としての才能、闘争心、持って生まれたカリスマ性は、現在の日本で、圧倒的にファンの心をつかんでいる。一方のグレイシーも、世界最強を自負する格闘技一族の誇りにかけて、この日本の少年を撃破したいところだ。
実際、立ち技もさることながら、この二人が寝業に入ったときにはどちらが強いのか、興味が尽きない。


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