沖縄の青年 その4


 彼は、那覇からはやや遠い、沖縄本島の北に住んでいた。奥様と、5人の子どもさんがおられるという。まず自立すること。そうして子どもをもうけ、普通の、幸せな家庭を営むこと。社会に貢献したり神仏に帰依するのはその後のことだという、素朴な哲学をお持ちのようだった。
 20年近く前、この男性が突然改心したとき、目の前に鴫がいた。鴫は、彼の前を小刻みに飛びながら、滝のある場所まで導いたのだという。そうして、真冬なのに彼は滝に打たれ、別人になって出てきたのだった。土建屋の社長だった彼は、それから酒、煙草、遊び、・ すべてをやめ、今日に至る“修行”が始まったのだという。
 翌日、男性に連れられて、われわれは深山幽谷に分け入った。20年前に彼の前を鳥が先導したように、この日も鳥たちが前を進む。ついでに、行く先々で、われわれは見たこともないような蝶やトンボを見ることができた。同行者が静かに手を差し出すと、蝶はおとなしく、その手の中に収まった。


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