巡礼 10


帰宅した夫は状況に驚き、医者に電話した。
医者の態度はすげなかった。
「リタが歩いているって? そんな馬鹿な」
「歩いてるんじゃありません。走ってるんです!」
医者は信じなかったが、ともかくも、診察はしてみようと言った。
家族は病院を訪れ、状況を説明した。メジュゴリエの聖母について書かれた本を読んだこと。夜、声がして祈りの言葉が口をついて出たこと。そして翌日が今日であること……。
リタは医者の前で歩いてみせた。ところが医者は、だんだん不機嫌になってきた。
「私は忙しいので……」
そういう医者に、夫は、なぜもっとよく調べないのかと食い下がった。
「悪い冗談だ。この人、リタの双子の妹だろう?」
「リタには双子の姉妹はいません。それに、私が彼女を見間違うとでもおっしゃるのですか?」
子供たちも、彼女が正真正銘の母親だと主張した。彼女に姉妹はいるが、髪の色は黒で、彼女には似ていない──。
検査の結果は、ことごとく正常だった。筋肉反応、反射テスト、神経系統の機能……。病院のスタッフが、驚愕の表情で様子を見守っていた。彼らはすでに、長く彼女を知っていたからである。
医者は、自分の見ていることが信じられない様子だった。
「あなた一体、何をしたんです?」
「メジュゴリエのマリア様にお願いしました」
「何回祈ったのです?」
「一度だけ」
最後に、医者はこう言った。
「祈りは、使い切ってしまいましたか? 私の分は、残ってないでしょうか」──
以上が、ペンシルベニア州に住むリタ・クラウスの身に、実際に起きたことである。
 


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