学会


日曜の朝、目が覚めたとき、時計が9時近くを指しているのを見て驚愕した。
前の夜何時に寝ようが、朝は6時から7時の間には必ず目覚めるので、私は目覚ましをセットするということがない。「便利ですね」といわれるが、決して便利ではない。寝不足の状態で、そのまま一日過ごすことになるからだ。
ところが、よりによってこの日に限って、私は9時まで眠ることができた。それもまた、決してよいことではなかった。この日は、朝10時から、学会で講演なのであった。
学会は、日本実存療法学会という。人間存在の真実を求めつつ、これを医療に応用しようとするもので、関係学会のなかでも最先端をいくといって過言ではない。この日の後援には、世界保健機関(WHO)がついていた。
会場に向う途中、適当なところで電車を降り、タクシーに乗ることを思いついたのは、不幸中の幸いだった。
間に合いそうだ……。そう思って車中で胸をなで下ろしていたとき、私は異様な事態に気づいた。
財布のなかに、お金がほとんどないのである。そういえば前の晩、不意の出費で現金を使い、この朝の慌ただしさのなかでは銀行に寄れようはずもなかった。
タクシー代は意外とかかり、出るときには最後のお札──一万円札ではなく、千円札!──が消えてなくなっていた。


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