黄金週間 10


ルルドで聖母を見た少女ベルナデッタは、貧しいので学校にも行けず、教会で教えられるキリスト教の要理も覚えられなくて、愚鈍な少女だといわれ続けた。
ところが、彼女が洞窟の上に現れた光輝く貴婦人を見ているときの表情があまりに美しかったので、それを見ただけで、つまり水による奇跡が起き始める前から、この奇跡を多くの人びとが信じたといわれる。
あるとき、聖母を見て恍惚としている彼女の手に大きなロウソクの火が当たり、炎は彼女の指の隙間から上に昇っていた。
その状態でも、彼女の法悦状態は変わることがなく、後で調べてみても手には火傷の痕跡がなかった。当時、ルルドにおける数少ない科学者の一人であったドズース医師は、この様子をつぶさに目撃し、記録を警察に残している。
一時的な意識の変容においても、われわれの肉体は変わる。まして、恒常的な意識の進化においてはなおさらである。
そのようなことを縷々話していると、過酷な黄金生活を続ける彼は言った。
「ところで、マリア様を見た聖女の遺体は腐敗しなかったというが、本当なのか?」
「本当ですが……」
「こっちは……生きてるうちに腐敗が始まりそうだ」
 彼はそんなことを言っては、大笑いするのだった。


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