天災 2


「お客さまがトラブルのようなので、ちょっと行ってきます」
私自身は、年末のこの時期、大陸旅遊のお客様が行方不明であるとか、谷奥さんがテレビに何度も登場しているなどのことを、そのとき知らなかった。
そのような非常事態、普通なら動転して他のことには一切気が廻らなくてもおかしくないのに、まだ3カ月も先のツアーのことで電話してきてくれたのだ。なんと律儀な人かと、後になって思い巡らすこととなった。
「必ず現地から電話しますから」
そう言って出ていった谷奥さんは、年が明けて、本当に現地から電話してきてくれた。
「本当に申し訳ございません」
彼はそう言って、しきりと謝った。
だが、この度のことは天災なのであって、誰が悪いというものではない。もちろん、被災した方への同情の心は日本国民なら誰しも余りあるが、谷奥社長もまた大変だったことだろう。
私には、月並みなねぎらいの言葉を口にすることができなかった。


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