「ファティマに行きましょうか」
そう言ったのは、ポルトの知人フリオだった。
幼い日のある晩、彼は眠れなくてベッドから抜け出し、母親のベッドにもぐり込んだ。そうして目をつぶろうかと思ったとき、信じられないものを見た。目の前に、美しい女性が現れて微笑んでいたのである。
一瞬、母親かと思った。が、母親は傍らで寝ている。あまりの美しさに心奪われたが、同時に恐怖心にとらわれたフリオは、思わず毛布を頭からかぶってしまう。ふたたび目を開けたとき、もう貴婦人の姿はそこになかった。
ファティマの大聖堂 1