会場となった国立代々木体育館に着いた午後二時には、すでに予選が終わり、残る選手の数は絞られてきていた。なかでも、ひときわ目をひいたのが、前回3位、前々回2位の大西健太郎(24歳)と、前二回を共に優勝している松本勇三(32歳:ブラジル出身)である。今大会はいずれが制してもおかしくないとの前評判どおり、両選手は順当に勝ち上がってきていたが、本当に、この二人の間で決勝が争われることになった。
決戦を前に、私は興味深いものを見ることができた。神技氷柱割り。重さ20キロの氷柱二本ずつを、まずヒジで、次に足刀で、最後に氷柱5本を手刀で割る。
一言に氷柱二本とか五本といっても、半端ではない。ある番組で、この種の氷柱の強度を検証していたが、プロの投手が至近距離から硬球を全力で投げつけても、こうした氷柱の一本もビクともしない。プロゴルファーがドライバーでゴルフボールを打ち込んでも、氷柱は折れることなく、中に穴が開いた。それほど、氷柱は折れないものなのである。
これを人間が手で割るという技を、目の前で見るのは初めてだった。氷は、気合とともに粉々となり、割れた破片が7、8メートル離れた私の前まで飛んだ。割ったのはブラジル人師範。後で聞いてみると、どんなに練習しても、才能のない者にはできないという。また、どんなに才能があっても、長年鍛練しなければ、やはりできない。そして、どんなに才能を持ち、鍛練に時間を費やしても、「気」が入らなければできないという。
神技・氷柱割り