ガネーシャ神と聖母マリア 1


 東京・浅草の待乳山というところに、すでに千数百年もガネーシャ神が祀られている。日本名を聖天様、または歓喜天といわれる。
 午前中、ふとしたことで、この神さまにお願い事をしに行かなければと思い始めた僕は、最近お参りに行ったという友人数人に次々と電話して、場所を確かめた。
 浅草寺で名高いエリアの、北にはずれたところに、ひっそりと聖天様はおられた。堂内に入るとき、時計を見ると三時であった。祭壇前にはダイコンとお花が何本も供えられ、聖天様をお喜ばせするのだという。その前で、何人かのご婦人が敬虔な祈りを捧げ、ロウソクを買って火を灯していた。
 なんでも、この聖天様、未曾有の霊力を兼ね備えながら乱暴者であらせられたのを、十一面観音様が“更生”させ、今では人びとの救済功徳のために尽力しておられるという。
 ガネーシャ神をも教化したという十一面観音菩薩を祭壇正面に見ながら、僕はふと思った。この観音様、もしかしたら日本の切支丹が長く心を寄せたマリア観音と同じ方ではなかろうかと……。そう思って、お寺のお堂でありながら「天使祝詞」を小声で唱える。こうしてお堂を出るとき、時計を見ると、四時二分前であった。


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