“不治の病” 1


 知的で、美しく、奥ゆかしくて、明るい、そんな人に出会うことが一生の間には稀にある。そうして不思議なことに、そういう人にかぎって、若くして病に冒される。
 数年前のある朝、彼女はふと、いつも昇っている階段を昇りづらいと感じている自分に気づいた。しばらくして病院に行くが、医師はただちに原因をつかむことはできなかった。病名がALS筋萎縮性側索硬化症ルー・ゲーリック病ともいわれ、ホーキング博士の病としても知られる)であると診断されたときには、それから二年近くも経っていた。
 今、彼女は病床にある。二年前には電話で話し、手紙を書くことができた。少しよくなったら、ルルドの水に浸かりに行きましょうと言って笑った。が、今はもうそれができない。ボランティアの学生に、手紙を代筆してもらう。メールも打ってもらう。電話をかけることもできない。
 そんな彼女を見舞うことを、僕は正直、恐れていた。
 彼女の表情には、かつてのような輝きはあるのだろうか。その目は、かつてのように知的なのか。今も明るく、人を包み込むような温かさを持っているのか。そんなあれこれを思うと、そもそも彼女自身が、見舞いに来られることを本当に望んでいるかどうか、自信が持てなかったのだ。


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