父は税務署を退職後、税理士として独立したが、
その際、副業として不動産業も始めている。
法律によると、不動産仲介を行なったとき、
その売買手数料は約定価額×3%+6万円、
賃貸の場合は、一カ月分の家賃とされている。
ところが私は、子供ながらに、
父がこうして法に定められた手数料を全額は受け取っていないことに気づいていた。
半分か、場合によっては1/3程度しか受け取っていない。
どうしてそうするのかと聞いたことがあったが、
父は答えなかった。
私も、父がそうするのなら、それが一番よい方法なのだと素直に思っていた。
不動産の仲介手数料は満額とられるものだということを思い知ったのは、
高校を卒業し、東京に出てきて、自分がこれを支払う側になってからだ。
大学のキャンパスには、高校のとき使った教科書の著者や、
さまざまな学術書の著者の先生がゴロゴロいて、
別の世界に来たような感覚を私に与えたが……
都会の不動産屋さんの店内もまた、違った意味でそうで、
私はこのような新しい世界を一人でなんとかやっていくために、
いつも自分を鞭打っていなければならなかった。