負傷して内地に戻った父は、海軍兵学校の教官になったが、
それを知ったのは、ある年の終戦記念日、
日の丸に書かれた寄せ書きを偶然、見つけたときだ。
それは当時の学生、つまり、父よりもっと若かった海軍の兵卒たちが、
特攻に出て行く直前、教官であった父に残していったものだった。
思い思いに書かれたさまざまな言葉のなかに、ただ一言、
「 捨て石 」 ○○○○(署名)
というものがあった。
『友のために命を捨てるほど、大きな愛はない』と、イエスは言った。
祖国のために命を捨てることは、それにも増して尊い。しかし、
人はさまざまな人生を繰り返しながら進化していくということを知らない若者たちが、
“一度限り”と信じる命を国のために捧げるとはどういうことなのか、
私には想像がつかない。
そのような無数の“捨て石”の上に、
戦後日本の享楽的ともいえる繁栄が築かれたが、
予言の葉には、現在のわが国の精神性の低下が大きな自然災害を引き起こしたし、
それはまだ終わっていないとも書かれている。
そのようなことを、あの戦争を戦った世代の人たちや、
負傷して死にかけた父がどう感じているのか、話してみたいが……
この原稿を書いている時点では加療のため、それができない。
この状態から早く脱したなら、
今度こそ話したいと思うことがたくさんあり、楽しみにしている。