昔、広島の西のはずれの丘の上にあるカトリック系の学校に、僕は通っていた。当時、そこには学校と寮と修道院があって、他にはほとんど何もなかった。
寮に住んでいた僕は、ときどき古江の山を下り、買い物に出るのが楽しみだった。その途中には畑があり、道端には無花果の木が植えられていた。実のなる季節には、カトリック校に通う生徒らも、これを失敬していただくこともあった。
それとほぼ同じ時代を広島で過ごした人がいた。芸術の才能に秀でた彼女は、しかしその道には進まず、普通の結婚をした。
その人が、久々に古江の無花果を手に入れたと言って訪ねてきてくれた。飛行機で広島からやってきた彼女は、無花果と花束を手にしていた。それを僕に渡すと、すぐまた、彼女は飛行機で帰るという。僕は驚いて言った。
「君、せっかく来てくれたんだから、ちょっと上がって行ったら……」
ところが、彼女は首を横に振った。特にこれから行くところもないので、空港に戻るという。
同じことを僕は三度提案したが、彼女は心を変えなかった。
「とってもお忙しいんでしょ。分かってるんです」
そう言って笑顔を残し、彼女は本当に、そのまま帰ってしまったのだった。
実は、以上は9月に起きたことである。心動かされた僕がこれをエッセーに書くと言ったら、彼女が載せないでくれと言うものだから、しばらく自重していた。が、月も変わり、この度、時効が成立したのである。
青山圭秀
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