私には到底、これが虫刺されによるものとは思えなかった。
確かに原因ははっきりしないものの、
症状は、ある日の夕食後、突然に起きてきたのだし、
この種の虫刺されの場合に起きてくるはずの高熱も、ひどい頭痛も、
起きてきそうな気配は一向にない。
医師は、手にも蕁麻疹ができてきていることが、これが食物アレルギーでないことの根拠だと述べたが、
果たしてそんなことがあるだろうか。
これが虫刺されによるものである疑いよりも、いまや、この医師が実際には用務員のおやじである疑いのほうが、
私には濃厚に思えてきた。
「ところで、仮にそうだとして、なにか効果的な塗り薬はないでしょうか」
「塗り薬? そんなものは忘れてください」
「・・・」
なんと、いい塗り薬はないから、処方もしないと”医師”は言うのだ。
なんという、良心的な医者!
効かない薬は処方しないというのだから。
とはいえ、こちらも往復で2時間をかけ、車を仕立ててきているのである。
なんとかして塗り薬を出してもらうと、
彼はついでに抗生物質も処方し、何を思ったか、
「そうそう、体重を計っておきましょう」とつけ加えた。
診察台にかけられていた奇妙に長い布を、
医師が、まるでマジシャンのような派手な手さばきで取り去ると、
中からは、小学生のころに使ったかのような年代物が登場した。
恐る恐る乗ってみると、針は46キロ台半ばまでしかいかない。
衣類分を差し引けば、45キロ台!
史上最低水準を更新だ。
ショックを隠せない私を横目に、医師は最後にこう言った。
「ディーパックさん、あなたどうやら、インドには向いていないようですね」
「・・・」
私がインドに向かないのは、医者に言われなくても自分が一番よく知っている。
「でも・・・」
と、申し訳なさそうに彼は付け加えた。
「悪く思わないで、また来てください」
「・・・」
インドへ、という意味なのか、あるいはまさか、当院へということか・・・。
が、ともかくもこうして、生まれて初めての皮膚科受診は終わったのだった。
しかしそれにしても、この医師が言った最後の言葉・・・
この言葉をこれまで何度、当のインド人から聞いたことだろう。
その度に、(もう二度と来ないで済めば・・・)と思うのに、
そうはならない。
この国に来る度、何度でも、予期せぬ困難に遭遇する。
だが仕方がない。
私は、この国に向かないのだ。
そしてそうしなければ、聖者や聖典に出会うことも、
この世界の神秘を学ぶこともできなかったのだ。