第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 八日目


 成田に向かう飛行機の中、ほぼ全員がぐっすり眠っている。今回は、ルルド・ファティマという聖母出現の二大聖地が入ったので、移動も多かった。添乗員の下江さんを飲みに誘う剛の者も、今回はいない。
 前の座席に「ルルドの母」こと斉藤さんがいる。実は彼女、旅行の後半で声が枯れ、コホコホ咳をするようになっていた。
「まさか、僕がうつしたんじゃないですよね!」
 と言うと、斉藤さんは言った。
「私、先生の代りに咳が出てもいいと思ってまして……」
 それは冗談だった……のだろうか。もしかしたら、彼女はルルドで本当にそう祈ったのかもしれない。それほど、出発のときの僕は悲惨だった。行きの飛行機のなかで早速“手当て”治療をしてくださった方もおられれば、周囲の人たちも一緒に祈ってくださった。
 そういう人たちに支えられて、この旅行が今、終わろうとしている。そんなことを十分に自覚することなく、調子に乗ってただ、しゃべり続けた僕は本当の馬鹿なのか……。ただ、仮に咳で苦み続けたとしても、やはり僕は今回の旅行でルルドとファティマの聖母に感謝したに違いない。
 成田に着くと、この皆さんはそんなことはおくびにも出さず、「お世話になりました」などと言って去って行かれる。また一つ、夢のような旅行が終わって、胸の苦しくなるときが来た。これからしばらくは、出発のときとは違った意味の、ちょうど恋人と別れたときのような胸の苦しさを、僕が感じなければならない時間なのだ。
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