天災 2

「お客さまがトラブルのようなので、ちょっと行ってきます」
私自身は、年末のこの時期、大陸旅遊のお客様が行方不明であるとか、谷奥さんがテレビに何度も登場しているなどのことを、そのとき知らなかった。
そのような非常事態、普通なら動転して他のことには一切気が廻らなくてもおかしくないのに、まだ3カ月も先のツアーのことで電話してきてくれたのだ。なんと律儀な人かと、後になって思い巡らすこととなった。
「必ず現地から電話しますから」
そう言って出ていった谷奥さんは、年が明けて、本当に現地から電話してきてくれた。
「本当に申し訳ございません」
彼はそう言って、しきりと謝った。
だが、この度のことは天災なのであって、誰が悪いというものではない。もちろん、被災した方への同情の心は日本国民なら誰しも余りあるが、谷奥社長もまた大変だったことだろう。
私には、月並みなねぎらいの言葉を口にすることができなかった。

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天災 3

「先生のツアーには実際上、何の影響もありません」
話が私のツアーに及ぶと、彼はそう断言した。
そうだろう。沿岸部の一部が津波にやられたが、われわれのツアーは沿岸部に近づかない。空港近くのホテルで一泊したら、後は内陸部の遺跡やアーユルヴェーダのリゾートを訪れるのである。
ただ、イメージの問題があった。こうした説明を直接読める方はいい。が、ご家族は心配にならないだろうか。あるいは、あのようなことがあった後、例外なく心優しい参加者の皆さんは素直に楽しんでいただけるだろうか。
もちろん、現地では、今のような時期の旅行者が、神様のように有り難いに違いないのだ。内陸部の旅行者の数も激減しているだろう。
その意味で、今は本当は、旅行にいい時なのだ。それに何より、あの国にとって、こうしたことで旅行者が来なくなることのほうが、義援金などではまかない切れないほどの大打撃になるはずなのだ……。

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天災 4

このようなときに、ツアーを中止にすれば、谷奥さんも困るに違いない。そういう思いもあった。今回のことは、大陸旅遊に落ち度があったことではまったくない。そんなことを思っていた私に、谷奥社長のほうがこう言ったのだ。
「先生、秋くらいに延期してもいいですよ。満を持してやりましょうよ」
この人は、本当に旅行業が好きなのだ。私はあらためてそう思った。目先の利益をあげるより、本当にいい旅行を楽しんでもらいたいのだ。
たしかに、この旅行は2年がかりで計画してきたものなのだ。だから、最高の形でやりたい。さまざまなことを思いめぐらしていた私に、彼のこの言葉は救いだった。
すでに旅行社には、お問い合わせが来ている。3月の旅行を計画に組み入れ、楽しみにしてくださっていた方もおられるに違いない。その皆さまには大変申し訳ない気持ちだが、とりあえず、今はライトフィールド・プレマ倶楽部からスリ・ランカ復興支援にささやかな義援金をお送りするに留める。
そうして秋(おそらくは11月)、皆さまとスリ・ランカを訪ねたい。そのときには、おそらくはこの谷奥社長が自ら、われわれをスリ・ランカの聖地に案内してくれるはずである。

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聖夜 1

 今年もあと数日で終わる。多くの方に助けられつつ、いろいろなことが起きた一年だった。皆さまからはたくさんのお便りをいただいたが、たまたま東京にいなくてお返事が遅れた方、手違いなどでお返事がまだの方には、ここでお詫びを申し上げたい。
 皆さまからのご質問のなかに、現在、<プレマ倶楽部>等で行なっている社会協力事業には、どんなことがあるかというものがあった。それについてどのようにお答えすべきかいろいろ迷っていたが、一年の終わるこの機会に、一部について触れてみようと思う。

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聖夜 2

 インドについては話が長くなるので省略することにして、インド以外で、昨年あたりから特に関心を寄せているのはカンボジアのことだ。
 カンボジアでは不幸な内戦が続き、それが終わって20年以上が経った今も、傷は癒えていない。彼らの多くは怠け者なのではない。ただ、どのようにして生計を立てていったらいいか分からず、あるいは病気や地雷にやられ、途方に暮れているのだ。そういう人は、最も助け甲斐のある人びとである。最初の援助を適切にすれば、自立していく可能性が高いからだ。そのような理念のもと、元ジャーナリストの村田みつおさんが活動を始めて、すでに6年になる。
 自立していくための基本となるのが農業のできる態勢であることは、洋の東西を問わない。そして、そのために最も必要とされるのは水である。きれいな水が飲めることが彼らの健康の基盤であり、かつ、生活の基盤ともなる。
  <プレマ倶楽部>では今年、【意識の科学<Art of Meditation>】第5期が終わった時点で、村田さんの運営するボランティア団体CVSG JAPANを通じて、井戸を五本掘っていただいた。井戸にはそれぞれ、「プレマの泉No.1、2……」等と書かれている(写真)。先日、第10期が終わった時点で、6本目から10本目を依頼し、現在それらが掘られつつある。
 また、ささやかながら、自立村の人びとが生活する家も建てさせていただき、「マリアの家」と名付けた。何家族かが生活するこの家は、ちょうど今から2000年前、マリアが神の子を生み落とした飼い葉桶を思い出させるが、家があるのとないのとでは雲泥の差だという。近い将来、この農園で実際に生きる彼らの様子を視察に行きたいと思っている。
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プレマの泉№1
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プレマの泉№2
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プレマの泉№3
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自立村の風景
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マリアの家に入居する家族
(父親は地雷の被害者)

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聖夜 3

 ネパールの大木神父はますます元気にしておられる。ただし、マオイストの活動が相変わらず激しいため、神父のやりたいことがそのままできないということが悩みの種である。
 そんな神父から久しぶりに来た便りには、嬉しいことが書かれていた。子供の頃から神父が見ていたヨセフィーナという女の子が、このたび高校を優秀な成績で卒業し、首都カトマンズにある聖ザビエル大学の理学部に合格したというのである。
 ただし、学費も生活費も、家庭にはない。おそらく今までは、神父が個人的に面倒を見てきたものと思われる。そこで、首都カトマンズで三年間、イエズス会の経営する大学に通い、生活していくための資金を援助させていただくこととなった。
 かつて佐々木幸枝さんに寄せられ、インドの孤児院や寺院、病人や知的障害者の家などのために使わせていただいてきたお金が、ちょうどそれくらい残っていた。そこで、これを「佐々木幸枝記念・聖マリア奨学金」と勝手に命名させてもらい、大木神父とサプナ・ヨセフィーナに贈ることとした。これに対し、ヨセフィーナは、毎日ロザリオを聖母マリアに捧げ、佐々木幸枝と日本の人たちのために祈ってくれているはずである。
 ところで、拙著『アガスティアの葉』をお読みいただいた方は、かつてポカラで、ガンで亡くなっていくタクシードライバーに神父が洗礼を授けるシーンがあったのを覚えておられるだろうか。ドライバーが亡くなった後、私がその家を訪ねると、冷たいせんべい布団の上に眠る少女たちがいた(『アガスティアの葉』146頁、文庫版153頁)。実は、奨学金を贈った後で、その一人がこのヨセフィーナであることが分かったのだが、そのときの私の驚きを読者の皆さんは想像していただけるだろうか。
 そしてまた、あのタクシードライバーの家族のことを、『アガスティアの葉』を読んだ佐々木幸枝がいたく気にしていたのを思い出すとき、これは単なる偶然ではなく、彼女自身がやっていることだと、私にはどうしても思えるのである。

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聖夜 4

 今は亡き佐々木幸枝のことを想うとき、この世界の不条理に思いを馳せずにはいられない。人を思いやる心根に厚く、慎ましやかだった彼女は、若くしてガンに冒された。ガンは現在、日本人の死因の第一位であり、かつその苦しみは筆舌に尽くし難い。
 そのような病気に対しては、西洋医学も東洋医学も決定打を持たない。私は主として東洋医学の立場に立ちながら、こうした問題に取り組んできたが、西洋医学のなかにも注目すべき療法がいくつか見受けられる。そのうちの一つが、免疫療法である。
 実はわれわれの細胞は、常にガン化し続けている。すなわち、人体のなかで何十兆かある細胞のうちのある程度の割合のものは、あるいは紫外線の攻撃をうけ、あるいは活性酸素の攻撃を受けながら、常にガン化しているのである。
 それなのにわれわれの多くがガンを発症しないのは、これを修復する機能が細胞に組み込まれているからだ。そしてその力を左右しているのが、言うまでもなく免疫である。
 免疫力を高めることができれば、われわれはあらゆる疾病に打ち勝つことができるといっても過言ではない。そして、数ある免疫療法のうち、私が注目しているものの一つは、Immunocell BRM-activated Killer Therapy (免疫細胞BAK療法)と呼ばれるものである。
 この方法を開発した海老名卓三郎博士は、かつてアインシュタインが来日したときに通訳をされた日下部四郎太博士の孫に当たられる。海老名先生とは、日本の統合医学会の元締めである渥美和彦・東京大学名誉教授に紹介され知り合ったが、拙著を読まれた海老名先生は、「祖父はあなたと同じように哲学が好きな物理学者でしたよ」と言われた。しかし先生自身が、哲学・宗教にきわめて深い関心を持っておられる。
 ガンに対する切除、放射線、抗ガン剤のような破壊的療法は、他の細胞にも同時に破壊的だ。そうではない、より自然で優しい方法を模索する海老名先生の研究のために、<プレマ倶楽部>はささやかな研究資金を寄贈した。 

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聖夜 5

 クリスマスの今日、日本中の人が特別な食事や行事によって、この日を祝う。もちろん、私にとっても心楽しい日だ。しかしこの日が来る度に、その過ごし方にやや戸惑いを感じるのは、私だけだろうか。
 かつてサイババは、自らの誕生日に次のような言葉を述べた。
『私は、暦のなかのある特定の日を、特に私の誕生日だとは思いません。
 皆さんが祝うその日は、もしありきたりの祭りとして祝うのであれば、他の日と何ら変わりはありません。なぜなら、私は、皆さんの心に神性が開花する日を、皆さんの内にいる私の誕生日と考えるからです。
 私の人生は、私のメッセージであり、私のメッセージは愛です。
 個人の平安であれ、国家の平和であれ、愛のみによってそれらは現実のものとなります。
 皆さんが私のメッセージに耳を傾け、愛を実践し、自らの内なる神性に気づいた日、その日こそが皆さんにとっての私の誕生日なのです』

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聖夜 6

 神の国に、いやわれわれの内側にいるイエスがおそらく同じことを思っているであろうこの夜、私は、こうしてささやかながら社会に貢献することを可能にしてくれた昔からの読者の皆さんと、<プレマ倶楽部>の皆さんに、心からの感謝を捧げたいと思う。
 皆さんのうち、毎日瞑想を実践しておられる方はそれだけで急速な意識の進化を遂げ、またそうでない方もそれぞれの行為に応じて着実に成長しておられるわけだが、その上に、こうして他の人びとを助けた分はまた、皆さんに返っていく。皆さんが知らない間に助けているインドや、カンボジアや、ネパールの人びと、ガンで苦しむ日本の人びとの祈りは、皆さんの幸福のために働き、彼らが得た喜びは近い将来、利息を伴って皆さんに返る。
 あるいは、ローマ・カトリックの考え方によれば、いつの日か皆さんが天国の門の前に立ったとき、皆さんが知らずに助けた、地上では名もなかった人びとがそこにいて、こう言うかもしれない。「あなたが早くおいでになれるよう、こうして皆で神さまにお祈りしながら待っていました」
 今日、日本中がイエスの誕生日を楽しむこの日を、私はこのような未来を祝う日とし、私から皆さんに感謝を捧げる日にしたいと思う。

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王朝 1

 初めてアメリカに留学した1979年、キャンパスを行き来する学生のなかに青色のバッジをつけている者がいたのを覚えている。『Kennedy 80』80年の大統領選挙に出馬しようとするケネディ家の三男エドワード・M・ケネディのキャンペーン・バッジだった。
 だが、彼が民主党の大統領候補に指名されることも、したがって大統領になることもなかった。その10年前、エドワードの運転する車はマサチューセッツ州チャッパキディックで橋から転落し、同乗していた女性が水中に沈んだ車の中で死んでいるのが発見された。
 通報は10時間も遅れ、なぜ通報がこれほど遅れたのか、亡くなった女性はケネディの何だったのかとスキャンダルに発展。結局、彼の大統領への夢は、この時点で絶たれたのだった。

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