これが公正証書でないかぎり、その遺言は速やかに裁判所に提出し、
間違いのないものであることを確認、
後の改変を防ぐという作業をする義務が、遺族にはある。
これを“検認”というらしい。
裁判所が検認の日に指定してきた6月7日は、
たまたま亡父の誕生日にあたっていた。
生きていれば、満96歳の誕生日を祝うことになっていたはずである。
この日、裁判所では、裁判官が、予定の4時を2分過ぎて入室してきた。
部屋に入るなり「いや、遅くなって失礼しました……」と言われた。
胸がそっくり返って、尊大な様子に見える。
が、それは私の勘違いだった。
裁判官は、体が不自由であったのだ。
体が歪み、反り返ったようになっていて、
手もご不自由であることが、書類を扱っているとすぐに分かった。
この体の状態で昔の厳しい司法試験に合格されるのは、
並大抵の努力ではなかったに違いない。
それでも彼は、笑顔を崩すことなく、検認の手続きは10分で終了した。
式に出させていただくためには、
この日の夜のうちに京都に入っておかなければならない。
実家には、3時間しかいられないことになる。
翌朝の7時までは一緒にいられると思っていた母は、
さすがにがっかりした様子を隠せなかったものの、
他ならぬYさんのことだというので、私の気持ちを理解してくれた。
そうして、さまざまな必要事を済ませると、
夜9時半の新幹線で、京都に向った。
新幹線のなかで仕事をしようと思っても……
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