聖骸布拝礼に先立ち、われわれはまず、
レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を見ることになる。
聖書によれば、ユダに裏切られて十字架につけられることを知っていたイエスは、
最後の晩餐の際、弟子たちに次のような言葉を語る。
『まことにまことにわたしは言う。
あなた方は泣き悲しみ、この世は喜ぶだろう。
そうだ、あなた方は悲しむ。だが、その悲しみは喜びに変わる。
女は子を産むとき、苦しむ。その時が来たからである。
だが、子を産んでからはもう、産みの苦しみを忘れる。
この世に一つの生命が生まれ出たことを、喜ぶからである。
あなた方も今は悲しんでいるが、ふたたびわたしに会うときには喜び、
その喜びが奪われることはない。
……わたしは言う。あなた方が父に求めることは何でも、
わたしの名によって与えられる。
今まであなた方は何一つわたしの名によって求めたことがないが、
求めよ、そうすれば与えられる。そして、あなた方は喜びに満たされる。
あなた方はこの世で苦しむだろう。だが、勇気を出せ。
わたしは、この世に勝ったのだ……』(ヨハネ 第16章20〜33節)
聖書にはまた、こうも記されている。
『イエスはまた、こう話し、心中憂いながら言った。
「まことに、まことにわたしは言う。
あなた方の一人が、わたしを裏切る……」』(同 13章21節)
このとき、弟子たちは、誰のことを言われているのか分からなかったので、
互いに顔を見合わせたとヨハネは書いているが、
まさにその瞬間の様子が描かれたダ・ヴィンチの作が、
『最後の晩餐』だ。
自分たちのうち、誰かが主を裏切ると知ったときの驚き、悲しみ、動揺……。
そして、手塩にかけて育て、愛してきた弟子に裏切られ、
十字架に上げられなければならない愛の人・イエスを、
天才による一世一代の仕事のなかに見てみたい。
同じ日の午後に行く北イタリアの聖地オローパを知っている人は……
日本人ならかなりの通だ。
しかし実は、この場所はイタリア、いやヨーロッパでも有数の聖母信仰の地で、
世界遺産にもなっている。
4世紀、聖エウゼビオがエルサレムから持ち帰った「黒いマリア」は、
福音史家・聖ルカによる製作。
山間(やまあい)にある美しい教会群で聖母を拝礼した後、
いよいよトリノに入る。