それにしてもS猫先生はなぜ、「せいぜい」などと言ったのだろうか。
この言葉にももしかして肯定的な用法があるのだろうかと思い、
辞書をひいてみると、なんと、それがあったのだ。
せいぜいには、「たかだか」という意味のほかに、
「できるだけ」「一生懸命」という意味がある。
用例として、平家物語中の文例などがひいてあるが、
S猫校長は古文の先生だからそんなことを知っていたのか。
現代では、その意味に用いられることはほぼ皆無に等しく、
もっぱら「たかだか」という意味で使われている。
そんなことを35年間、思い出すたび考えていたところ、
今回、オリンピック関連の番組を見ていて
思わぬシーンに遭遇した。
それは、中国を訪問したわが国の首相が、
日本選手団を前に行なった激励の訓話中に起きた。
「せいぜい、頑張ってください」
それぞれ国を代表してオリンピックに来た選手たちを目の前にして、
福田総理は、S猫とまったく同じことを言ったのだ。
しかも:「せいぜい」に抑揚をつけたその言い方がまさに瓜二つだったのには、
驚きを通り越して感慨すら感じさせた。
では……
この言葉に対するメディアの反応はどうなのか、
私が注目したのは言うまでもない。
古文に登場するその肯定的用法を知っている人がいて、
マスコミは首相を擁護するのか……。
そう思って注目したが、われわれのときと同様、
大いに不評だった。