ちなみに、この先生、寮の舎監として赴任されたが、
風貌に違わぬ、変わった方だった。
あるとき彼は、自分の部屋で猫を飼い始め、
あろうことか学校にまで連れてき始めた。
肩に猫を乗せてこの人が歩いている姿は、
厳しい教育をしていたカトリック校だっただけに、
ある種、異様であった。
他の教職員からクレームが出なかったわけはなく、
いったいどうするのだろうと思って見ていたが……
その猫は、ある日突然死んだ。
一緒に寝ていて、寝返りをうった拍子に圧死させてしまったのだという。
彼はカトリックであったが、猫は寮の庭に埋葬された。
しかし、中学生・高校生などは本当に口さがないもので、
あれは処理に困った彼が自分で殺したのだ、などという噂が一部でささやかれた。
また、昔の女友だちから「流産した」という手紙を受け取り、
食事時、われわれ全員の目の前で、大声で泣かれたことがあった。
東大の教育学部の大学院を受験に行かれたが、
試験時間を間違えて不合格だったと言って笑いながら帰って来られた。
このような数々の印象を残しながら、
1、2年広島学院におられたが、その後の行方は杳として知れず、
現在も旧教職員名簿にその連絡先は載っていない。
それにしても忘れられない先生なので、
主人公の名として、『最後の奇跡』にご登場いただいた。
下のお名前は真一、洗礼名はヨハネなので、
John S. Aiura と署名しておられたのが忘れられない。
どこかで読んで連絡でもしていただけたら嬉しいのだが、
いまだに何の音沙汰もない。