洗練されたファッションや香水のイメージの色濃いフランスも、
もっとも主要な産業は農業であることを、中学の地理で習った。
実際、ひとたびバスでパリを出ると、
見渡すかぎり農地が続く……という風景に出会う。
それでも、そのところどころにコンクリートの丸い建造物群があり、
それは原子力発電所なのであった。
フランスの電力の原子力依存度は、おそらく世界一だ。
フランスのルルドで聖母を見た少女ベルナデッタの父親の職業も、
粉ひき職人であった。
ところが彼は、左目を失明して職を失い、
小麦粉を盗んだと濡れ衣を着せられ投獄されている。
一家は路頭に迷い、
監獄としてすら使われなくなった一室を借りて住むことになった。
ベルナデッタ自身もコレラにかかり、
栄養失調も重なって病弱で、愚鈍といわれた。
聖母がご出現になったのは、そんな時期だった。
偉大な出来事が起きる前、
自然界が大きな試練を与えることはよくある。
来るべき時に備えて、
その人のカルマを一掃するがごとくである。
宗研の映写会で初めてルルドの話を聞いたとき、
いちばん心に残ったのは……
ルルドで、今日も奇跡的な治癒が続いている、ということではなかった。
たとえ肉体の治癒が得られなくても、
人びとは心を癒されてルルドを後にする、ということのほうが印象深かった。
そう言われたときの神父の声色、口調まで、
いまだにありありと思い出されるのはどうしたことか。
そして、あのとき、あの場所に一緒にいた同級生たちのことも、
思い出すことができる。
ルルドで泉の水に浸かったときの清新さは、言葉で表現できない。
特別な宗教や信仰をお持ちでない方のほうがツアーにはたくさん来られるが、
その皆さんも、
「こんな経験ができるとは、思いもよりませんでした」と、
顔を輝かせて言われる。
あるいは、ルルドの雰囲気や、
人びとの真摯な祈りの姿に打たれて、涙を流される。
あの場所に行って、人生に何の変化もなく帰って来ることは、
ほとんど不可能に近い。