中学のときの宗研で、ある日、物語の映写会があった。
『ルルド』で起きた出来事を再現したもので、
私はルルドのことを初めて知ることになった。
そのときは、後に自分がルルドや聖母マリアを題材とした小説を書くことや、
読者の皆さんと何度もルルドに行くようになることなど、
思いもよらなかった。
また、ときを遡ること何十年も前に聖母マリアが、
一人のスペイン人医学生にルルドで2つも奇跡を見せていなければ、
被爆した長谷川少年が助かって神父になることもなく、
したがって、私が長谷川神父から祈りや要理を習うことも、
そもそも神父に巡り会うこともなかったなど、
まったく知らなかった。
ここ数年来、ルルドにご一緒した皆さんのなかには、
まったく予想もしなかったことだが、実際に奇跡的な治癒を得た方たちがいる。
そのうちのお一人とは、その前、
インドの聖女が来日した際の会場で、何年ぶりかでお会いした(再会した)。
「どうしておられますか?」と聞かれ、私は、
「今度、ルルドに巡礼に行くんです」と答えた。
その場で彼女は、「では、私も連れていってください」と即答したのだった。
実際にルルドに着いた日……
すでに水浴のできる時間を過ぎていたが、
彼女は諦められず、蛇口から出てくるルルドの水を手にすくい、目を浸した。
医学的にはあり得ない話だが、水は眼球の裏側まで滲みてきて、
ほとんど見えることのなかった左の目に、15年ぶりにものが映った。
そうしたことは聖地に巡礼する人の心理的な効果で起きるのだという説があって、
私自身、心理的な効果もあるだろうと思う。
私たちの持っている「科学」自体が曖昧模糊としたものだから、
どこからが奇跡で、どこまでが心理的な効果で説明できるかもまた、はっきりしない。
今日、奇跡だと思っても、明日は科学的に説明されるかもしれない。
ただ、旅行の間、日を追うごとに視界ははっきりしてきて、
実際に彼女の左目が見えるようになったということが、
私は素直に嬉しいのである。