判定 1


かつて、ベラ・チャスラフスカという体操選手がいた。美しい身のこなしと容姿、完成された芸術性で世界中を魅了し、東京オリンピックでは個人総合優勝の栄冠に輝いた。体操選手としての完成度は誰にも文句のつけようもなく、名花といわれた。
後にナディア・コマネチが現れ、どんなに完璧な演技を披露しても、あのチャスラフスカだけには及ばないと何度も言われた。
……が、その彼女にも超えられないものがあった。ソ連審判による採点だった。
旧ソ連の審判が、自国選手を露骨にひいきした採点をしていたことは、体操関係者なら誰でも知っている。それは過去にも知られ、現在も知られている。が、どうすることもできなかった。彼らの政治力に、誰も口出しできなかったのである。
これ以上ない演技をしたチャスラフスカには低い得点しか与えられず、そうでもない演技のソ連人選手にまんまと優勝をさらわれたとき、彼女は涙を流して泣いた。こらえようにもこらえきれない名花の涙が、世界中のテレビカメラに映し出された。


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