ファティマを後にしたわれわれは、コインブラに向った。ファティマで聖母を見た少女ルチアはその後、この地のカルメル会に入り、現在も祈りの生活を送っている。当時10歳だった彼女は、今、97歳のはずである。一説では、ファティマ第3の予言に書かれた破局を、ルチアは見てから死ぬともいわれてもいる。
だが、そのルチアに会うことは誰にもできない。彼女は修道院の奥深く、世俗の喧騒から離れたところで、祈りと労働の生活を、すでに80年以上も続けているのだ。
固く閉ざされた修院──。
その前に立っただけでも胸がいっぱいのぼくを横目に、フリオが呼び鈴を押した。思いがけず応答があって、何やら話をしている。
「日本からファティマの物語を本に書いた作家が来ています。少しだけでも中に入れてもらえませんか……」
予め相談されたなら「やめて」と言ったであろうそんな交渉を、フリオはしたらしい。そうしてしばらくして、中から一人のシスターが出てきたのだった。
「少しだけですが……」
彼女はそう言って扉を開けると、聖堂にまでわれわれを導き入れてくれた。そこは毎朝、ルチア自身がミサに与る聖堂だった。
カルメル会修道院の聖母像