叙勲 3


 そうしてみると、人が本当に心惹かれるのは、やはり人間自身の内面や存在の深奥なんだと、あらためて思う。
 正直にいえば、今回も出がけに、こんなことをしていて時間がもったいなくはないのかと、チラと自問したのだ。が、伊藤監督は、人間の内面を描き出すことだけを考える人で、ぼくはそのことに共感している。
 実はその昔、『理性のゆらぎ』がまだ海のものとも山のものともつかぬ原稿のとき、これを丁寧に読んで批評してくださったのが、監督だった。
 そして、あれだけの数の人なのに、招待状に自筆の文を書き加える人柄……。多分、あのきら星のような俳優や女優も、そういう監督の内面から力を引き出され、実力以上の演技をするようになるのではないか。
 栄えある叙勲は、そんな監督の人間性に対するものだと思うと、なんとなく納得する。


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