マダムと肋骨 5


「二カ所だったんだ……ふ〜〜〜ん……」
(ふ〜〜〜ん……とか言っちゃって、納得しないでほしい)と、私は思った。
痛むのは二カ所だと、最初から言っていたのだ。
しかし医師は、悪びれるでもなく、むしろ楽しげにすら見えた。
まるで、パズルが解けてはしゃぐ少年のようなその様をみると
私も少々気が抜けてしまったが、彼はこちらをキョロリと見て言った。
「青山さん、ひょっとしてあなた……」
「ハイ……?」
「無理をしたでしょ?」
「え……」
相手の弱みを的確についたと思ったのか、
医師は、私の普段持っている黒のリュックを指さして言った。
「たとえばあのカバン、重いんでしょう??」
「い、いえ、そうでもないと……」
たまたま、普段入れているような本や書類、水は置いてきていた。
だから、重くないと私が言っているのに……


もっと驚くことが起きた。
なんと、看護師の一人がツカツカと近づくや、
私の黒のリュックを持ち上げて見せたのである。
「重くありません」
事態の推移に驚く私は、ただただ唖然とする他なかった。


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